大判例

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仙台高等裁判所 昭和26年(ナ)12号 判決

原告 吉田林治

被告 青森県選挙管理委員会

一、主  文

被告が橋本保明の訴願につき昭和二十六年六月十五日附でした裁決、即ち同年四月二十三日執行の青森県上北郡野辺地町町会議員選挙における原告の当選の効力に関し、橋本保明からした異議申立に対する同町選挙管理委員会の棄却決定を取消して原告の当選を無効とする旨の裁決はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として

一、原告は昭和二十六年四月二十三日執行された青森県上北郡野辺地町町会議員選挙において立候補し百五十一票の得票をもつて当選した者であるが、橋本保明から同町選挙管理委員会に対して右当選の効力に関する異議の申立をし、その申立棄却の決定があつたのに対しこれを不服として更に被告に対し訴願したところ、被告は昭和二十六年六月十五日右訴願を理由ありとし右決定を取消して原告の当選を無効とする旨の裁決をし、該裁決書は同年六月十八日原告に送達された。

二、しかし右裁決は次の理由により結局違法である。

(一)、右選挙において次点者杉山太一郎の得票数が百五十票であること、及び野辺地町における選挙人名簿に登録された有資格者である同町大字野辺地字赤坂五十六番地山田福治(大正十三年十月十三日生)は選挙当日投票を拒否され、右名簿に登録されていない無資格者である同町大字野辺地字坊の塚六番地山田福治(昭和五年六月八日生)が不在投票をしたことは、原告もこれを争わないところである。従つて右無資格者のした投票は無効であるが、右投票は何人に対してされたか不明であるからこの場合は全候補者から一票ずつ控除すべきであつて、単に当選者のみからこれを控除して計算すべきではない。

(二)、本件の選挙において無効とされた投票中には「ヨシダ」と記載された一票があるが、「」というのは原告が古くから使用している屋号であるから右一票は原告の有効投票に算入さるべきものである。

よつて原告の得票数は結局次点者杉山太一郎の得票数より多くなるから原告の当選は有効で、これを無効とした前示裁決は違法として取消さるべきものであると述べた。(証拠省略)

被告訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、答弁として、原告主張の一の事実は争わない。同二の事実は争う。即ち、

(一)、右選挙において次点者杉山太一郎の得票数は百五十票であるが選挙人名簿に登録された有資格者である青森県上北郡野辺地町大字野辺地字赤坂五十六番地山田福治(大正十三年十月十三日生)は選挙当日その投票を拒否され、右名簿に登録されない無資格者である同町大字野辺地字坊の塚六番地山田福治(昭和五年六月八日生)が不在投票をしたものである。右無資格者のした投票は無効であるが、その投票は何人に対してされたか不明であるから、仮にこの一票が原告に投票されたとすればこれを原告の得票数から控除しなければならないから原告の得票数は百五十票となり次点者杉山太一郎の得票数と同数となる結果原告の当選の効力に影響を及ぼすことゝなる。

(二)、本件選挙において無効とされた投票中に原告主張の「ヨシダ」と記載された一票のあることは争わない。「」が原告の屋号であることは知らない。右投票は他事記載の投票として無効である。又右投票の効力については前示異議訴願の理由として主張されなかつたものであるから、本訴において新にこれを主張するのは違法である。仮に右投票が原告の有効投票として算入すべきものでその結果原告の得票数が一票増加するとしても、前示投票を拒否された有資格者である山田福治については若しその投票を拒否されなかつたら何人かに投票されたものと想定されるから同人の一票は消極的帰属不明の無効投票というべきで、仮に右一票が次点者杉山太一郎に投票されたとすれば同人の得票数は原告のそれと同数となる。

よつていずれにしても原告の当選を無効とした前示裁決は結局相当であつて原告の本訴請求は失当であると述べた。(証拠省略)

三、理  由

原告主張の一の事実は当事者間に争がない。原告主張の二の事実について案ずるに、

(一)、本件町会議員選挙において選挙会の決定した次点者杉山太一郎の得票数が百五十票であること及び野辺地町選挙人名簿に登録された有資格者である青森県上北郡野辺地町大字野辺地字赤坂五十六番地山田福治(大正十三年十月十三日生)は選挙当日その投票を拒否され、右名簿に登録されない無資格者である同町大字野辺地字坊の塚六番地山田福治(昭和五年六月八日生)が不在投票をしたことは、いずれも当事者間に争がない。よつて右無資格者のした投票は何人に投票されたか帰属不明の無効投票であることが明である。

(二)、原告の有効投票とされなかつた無効投票中に「ヨシダ」と記載された一票があることは当事者間に争がない。しかるに成立に争のない甲第二号証によると前示選挙における立候補者中には原告のほかに吉田姓の者又はこれと類似の音を有する氏名の者がなかつたことが認められ、証人鈴木逸太の証言によると、「」というのは原告の屋号であつて、原告家は野辺地町における相当の旧家で代々右屋号を使用し同町及び近在の人の間にも右屋号が通用しているものであることが認められる。右事実に徴すると、右「ヨシダ」という投票は原告の姓の上に原告の屋号として通用しているものを表示したもので、右屋号はいわゆる身分敬称などの類に該当するものと認められるからこれを他事の記載ということはできない。よつて右投票は原告に対する投票として有効である。

以上によると、原告の得票数は、前示当事者間に争のない有効投票百五十一票に右(二)に認定した「ヨシダ」の投票一票を加えた合計百五十二票となるのであるが、前示(一)に認定した帰属不明の無効投票一票があるから仮にこれを原告の得票数から控除しても原告の得票数はなお百五十一票となり次点者杉山太一郎の得票数百五十票よりも一票多くなること計数上明である。

被告は、右(二)に認定した「ヨシダ」の投票の効力については本件異議訴願の理由として主張されなかつたのであるから、本訴において新にこれを主張することは許されない旨主張するが、本件当選の効力に関する異議訴願手続において主張されなかつた当選無効の原因事由を本訴において新に追加主張することは差支えないのであるからこれを違法ということはできない。又被告は、前示投票を拒否された有資格者山田福治については若しその投票を拒否されなかつたら何人かに投票されたものと想定されるから、これを消極的帰属不明の無効投票として候補者の得票数の計算上考慮すべきものである旨主張するが、右有資格者山田福治は結局投票しなかつたものであることは本件弁論の全趣旨からして明であるから、かように現実に投票されなかつたものについてはその投票の効力を云々する余地は全くないものというべきであつて従つてこれについては被告主張のように消極的帰属不明の無効投票として候補者の得票数の計算上考慮すべき限りではない。よつて被告の右主張はいずれも理由がない。

よつて結局原告の当選は有効であるからこれを無効とした原告主張の前示裁決は違法であつて取消を免れないものである。よつて原告の本訴請求を認容すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 石井義彦)

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